あ な た と 隔 た れ た 時 間 が さ み し い
あ な た と 閉 ざ さ れ た 関 係 が く る し い
毎夜、毎夜、彼は妾宅へと出かけてゆく
あたしは賄いだからそのお世話をし、見届けるのが仕事です
「…チャン、今日も宜しくネ」
たくさんいる賄い方の中で、永倉さんは必ず私を指名する。
「ハイ…。後で伺います。」
今日はどちらで?なーんて野暮なことは聞かないことにした。
彼が馴染んでいるのは亀屋の小常さんか、大坂に居るお鹿さん。
もう名前まで覚えちゃったよ…
賄い方は幹部の妾宅への朝帰りの連絡かお迎えか、果ては夕食や夜食まで届に行くのが仕事とされています
あたしはその仕事を任命され、永倉さんのいわば…使用人みたいなもの
きっとどんなに鈍い人だって気付く筈
戦いの渦中に身を置いている彼が気付かない訳が無い
知 っ て て あ た し に 言 う ん で す か
知 っ て て 、 あ た し に こ の 仕 事 を や ら す の で す か
「永倉さん、今夜はどうしますか」
「ンー…近藤さん達、何か言ってた?」
「特には。」
あたしはこの時
ほんの少し魔がさした
「あぁ、でも…副長が戻ってこいと言ってましたよ」
月明かりさす、帰り道
今夜は傍に永倉さんが歩いていた
「ねェ、チャン。」
「はい?」
「さっきの―…土方さんが戻ってこいってやつ。嘘でショ」
「え…」
言葉が喉に詰まる
永 倉 さ ん に 、 ば れ た
「俺はネ、ぜったいに君だけは愛したりしないヨ」
お れ は ね 、 ぜ っ た い に き み だ け は あ い し た り し な い よ 。
「そんなの…、知ってます」
そんなの、あなたと出会って仕事を任されたときから知っています
「でもね。俺は嫌いな奴に口付けなんてしねェから」
あたしの唇に押し付けられる、それ。
突然のことで訳が分からずに
そしてそのまま、永倉さんは月明かりに照らされて淡く微笑んでいた
あ た し は こ の 瞬 間 に 死 ん で し ま い た か っ た
アトガキ.
賄いは幹部の妾宅にお世話にしに行っていたという。
というどこかの新撰組献文で見た時に書いた話
慧