「永倉隊長っ!」
叫んだ瞬間に何かが無常に斬り落とされた。
わたしの好きな人は、乾いた目で倒れてゆく敵の体を見つめてブンッと刀を振る。
障子に紅い模様がついた。
「俺は平気だから。、ちゃんと前見て。」
「はい、ですが…!」
「…俺を誰だと思ってるの。」
頬に付いた血痕が生々しくて、笑みを浮かべる隊長の表情が浮き彫りになる。
正直言って、ぞっとした。
「心底、味方でよかったと思いますよ。」
「はは。でも…容赦はしねェよ?」
「地獄の稽古ですもんね。」
「ホラ、が無駄口なんか叩いているからあちらさんが来たじゃない」
「ここは任せて下さい。隊長は奥へ。」
「勘違いしないでヨ?」
「え?」
私が正眼の構えをしようとした時、通り過ぎる隊長がボソッと何かを言った。
「俺は、新撰組だけど…」
ただずっと先へと続く廊下の奥へ走り出す、隊長の背中に目を見開く。
浅黄色の羽織が、まぶしくて、いつだって追いつきたくて
その背中を守りたいと思っていたのに
「好きな女くらいは守るサ。」
はっきりと聴こえたその言葉が嬉しすぎて「わたしだって守りたい」と言えなかった。
きっと隊長なら、お見通しだと思うんだ。
その背をわたしに向けるのは、任せてくれてるからなんですよね?
守り守られ、ヘルムホルツ
(きっと私達は背中合わせで戦っていられる)