「嫌われ者には慣れていますから、」

彼は優しく私を拒絶する。京都の街ではひそやかに言われ続ける壬生の蔭口。 だけど私には笑ってしまうほど関係のないことだと思っていた。 沖田総司、この人に関わるまでは。 沖田さんが床に伏せった日から私はただの新撰組女中ではなくなった。

さん、すみません。」

私は知らなかった。一番隊の隊長を勤め上げる人がこんなに穏やかな人だということに。 向き直るとそう一言、沖田さんが私に告げた。

「何がですか?」
「…あなたの仕事が私のお世話係だなんて」

すみません、と、零す。何時の間にか、こんなにも気負ってしまっていた沖田さんは 諦めたような、そんな、笑顔を身につけていた。 私はこのかおがあまり好きではない。 昔の、病気と知る前の彼はこんな笑い方をするひとではなかった。 土方さんと戯れて笑い、永倉さん達三人とお腹を抱えて笑い、 鉄之助くんに諭しては優しく笑う、そんなひとだった。

だけど、だけど、いつの間にかこんな、どうしようもない笑い方しか 出来ないでいる沖田さんが居た。なんとかしてあげたい、でも、 どうしようもできない。そんな自分の無力さが恥ずかしい。

「謝らないで下さい。私は、」

私は、どうしたんだろう? 本当はただ偽善を言って自分を慰めているだけでは無いのだろうか。 言葉に詰まった私を淡くはじけとぶ泡のような瞳で沖田さんはこちらを見る。 ひどく、自分が、咎められているようだ。

「貴女が気に病むことはありません」

病は気からだと、よく言うでしょう?すべては、そう、私の気から故です。 だからさんが気に病む必要はまったくないんですよ、と、 そう言って彼は私の髪をひと房だけ撫でた。 ひとつひとつの仕種すべてが、私をどう仕様もなくさせる。 彼を愛おしいという気持ちだけで狂ってしまいそうで、 こちらまで滅入ってしまった。


未病 ( 20090928 )
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