「あなたが好きだ、と言ったら…あなたは私を嫌いになりますか?」

一瞬にして世界が色を失うような気がして、涙を必死に堪えた。 言われたくて仕様が無く、言われたくなくて仕様が無かった言葉をついに彼が口にした。 何もかもが遅すぎて、自分の後悔とかすべてもこの現実じゃちっぽけなものなんだろうと 思うことさえ出来ずに色褪せてしまうのか。

「…総司、さん……」

もし私が彼と同じ隊士であり、仲間であったらこんな無残な結末にはならなかったのか、なんて 馬鹿馬鹿しくて笑ってしまうようなことも考えてはまた落ち込んでその繰り返し。 別れの足音は刻々と近づいていったというのに見てみぬ振りをした。今なんて、そう、 震える声に気付かない振りをする沖田さんに、「好き」というその一つの感情が溢れだしそうになって 嫌んなる。そんな私を知ってか知らずか、彼に似使わない強引さで思い切り抱き締められたのだ。

(心臓が、止まる、)(あぁ、そうか)(私は、私達は初めから上手く呼吸など出来てなかった)

「こんなことをしてすみません、だけどこうしていないと貴女は次の言葉を言ってしまうでしょう?」

体を離してゆっくりと、淡く小さく、微笑む。あぁ彼は―…どうしてこんなに綺麗なんでしょう。 神様教えてください、罪を背負えばこんなに綺麗に笑えるというのですか、心が澄んでいればこんなに綺麗に 言葉を紡げるのだというのですが、人を殺せば、(こんなにも、儚い存在になるのですか、)

初めて会った時からずっと思っていた。
美しく、そして儚い存在。
目を離せば消えてしまいそうなくらい淡い存在。

「総司さん…、わたしは」
「言わないで。」

ぎゅう、と力を込めてまた。抱きすくめられる。細くて綺麗な彼の 腕に一体どこでこんな力が出せるのかと思うくらい。やっぱり、男の人なんだね。

「貴女に今、言われると…私明日からお仕事できなくなっちゃいます」

くすっと冗談ぽく耳元であなたの声が聞こえるけど―本当はお互いに泣いていたのかもしれない。 堕ちていく沈黙。どこか遠くで聞こえる遠吠えに身震いがした。

「お別れです。」

そう言うや否や、引き剥がされる肢体に呆然と立ち尽くす私の使えない身体。さよなら の合図がやってきた。総司さんはもうそれ以上何も言わずこちらも振り返らずに歩いてゆこうとする。

染み一つありはしない浅黄色の隊服を翻し、崩れる私の膝もとにポツリポツリと雨が降る。

「総司さんッ!」

悲痛な叫び声が闇に響く。あぁ、私は何をしているの。引き止めて何になるというの。 馬鹿じゃないの馬鹿みたいよ。世界が狂ってるわ、どうか、どうか振り返らないで。

「愛してた!本当よ、私…あなたのことをずっと愛してる」

ジャリ、と…足音の止まる音に恐る恐る顔を上げた。(お願いだから、)

「ほんと…う、ですかそれ。」

腕を伸ばせば近くにあなた。崩壊に近づくすべての存在。 どうせ一緒にはいられない運命なのだ。 これから遠くへ行ってしまうあなたに伝えたかった最後の言葉。

「聞けて良かったです、。」

大きくて暖かい手が私の頬に触れる。この手はこれから何人もの人を 殺して殺して殺して這いずって生きてくんだろう。決して私の恋は胸を張れるものじゃなかった。 でも、なんでかな。涙が、とまらない。鬼に恋して一体何が悪いのだというのだろう。 すべての人よ、嘲笑うがいいわ、私が総司を愛しているということは誰にも変えることの出来ない 唯一の真実なのだから。

(どうか、気をつけて。と言う前に塞がれる唇) (あなたと触れ合う最後のぬくもりに目を閉じた。)









last word last world


(2008326修正|あまり多くは語りません。ただ露へ捧げます) inserted by FC2 system