どうして人は、恋をする

私の目の前に居る人は、どうして、私を抱く?
どうして、私は、この人を愛す?ねえ、どうして、

「くっだらねー」

総悟は浅く吐きだした息と同時に私を見た。
その瞼を開く瞬間に揺れる睫毛が、綺麗だと感じてしまうのは、ねえ、どうして?

「あんたってどうして、そう、」

私と繋がったままの下腹部をちらりと見ると「下らない事ばかり考えれるんですかねェ、」と 本日二度目の下らないという言葉を吐き捨てられた。 腹部が圧迫されるのは総悟のそれで栓をされているせいか、それとも、 私が、ただ、あるがままを受け入れて感じているせいか、 それさえも良く分からない。いつもの情事に見えて、何かが違う。 違うのは何だ。

、」

感慨深い声で呼ばれて意識を取り戻す。
ぞくりとするほど総悟が冷めた目線で見下ろしていた。

「集中しなせェ」

その言葉は、まるで他事を考えている私を咎めるように 優しく耳元で囁かれた。嗚呼、そうか、(そこで私は気付いたのだ) いつもと違うように見えたそれは、いつもと同じ、だった。 いつもと同じように総悟に抱かれいつもと同じように私が先に果て、 そしてすぐ後で彼が果てる。そして、私を抱きしめて、こういうのだ 「愛してる」それで、満足。満足な、はずなのに、どうして こんなにも空っぽに感じてしまうんだろう身体も心も、全てが。

「…」
「…そんな目しなさんな、」

総悟の声が普段の倍、低くなる。 はっとして見上げると、酸素を思い切り強引な口付けによって 吹き込まれた。突然の出来事と、求めていなかったそれに 身体が拒絶反応を起こしたのか咽返る喉元を必死に押しとどめる。 私は、いつもよりも濡れていた。結合部分が溶けてしまいそうなほど 熱くて、それでも、彼は優しかった。声で分かる。 嗚呼、そっか。私は、声で分かるほど、総悟の事を理解しようとしていて、 でもそれは私の自己満足でしかないないのではないかと不安になって 子どもみたいに、いま、ないているんだろう。

「苦しかったろィ」

唇を離した後、彼は深い笑みを浮かべて云った。
恋とは、つまり、そういう事だと、まるで私に諭すように。

「総悟も、苦しいの?」
「さあな」

誤魔化したように肩を竦めたけれど、総悟の目は 潤んでいて、私たちはしばらく見つめ合った後 今度は甘いキスをして、指先をそっと絡めた。





指先から溶けゆく

( わたしのぜんぶは、あなたでできているみたい )

Rain of Kiss 様へ 愛を込めて
Title by シュレーディンガーの猫 様 inserted by FC2 system