距離を保つのは昔からうまかった、俺に、関しては。




かみさまのあくび




窓から見上げた空は渇ききったように晴れていた。 手持ち無沙汰に右手でシャープペンシルをくるくる回して考えた。 信じてなんかいないが、もし神様ってやつが居たのなら 俺達が最初からこうなる事を予想でもしていたんだろうか、なんて。 前の席を見る。彼女はこっちの考えなど知らず、黒板に目を釘付けにし 淡々とノートをとっていた。 そうこうしているうちに、やっと、待っていましたといわんばかりに 授業開始チャイムが鳴って数分後の睡魔が襲ってきた。 最近の俺はこうやって物思いに耽って眠ることがお決まりになっている。 その方が、なんとなくすぐに眠れるような気がするし夢見心地も良いのだ。 まあ気休めかもしれねェけど。

「…そ…ご、総悟起きて」

俺が寝た(と実感したときから)何秒も経っていないんじゃないか、と、 思うくらいのタイミングで女の声が降ってきた。 普段ならもう少し寝かせろと不機嫌の一言が決まり文句なのだが 何だかいやに脳味噌がすっきりと覚醒しているのだ。 仕様が無しに重たく沈んだ瞼を開くと、色と光が一斉に飛び込んできた。

「もう授業終わったよ?」

そこに居たのはだ。俺の背中がやけに温かいと思ったら、彼女の手が 触れているからだった。だがは躊躇ったような表情をして、そうっと 手を退けた。

「何でィ爆睡かよ」
「始まって数分で寝てたよね」
「どうして知ってんですかィ」
「さ、さあね!自分で考えなよ、」
「どうでもいいけどノート貸しやがれ」
「それが人に物を頼む時の態度ですか?」
「…何がいいんでィ、」
「放課後マックで許してあげる!」

またかよ、お前それ好きだなァ、豚になりますぜィ。と悪態ついてやろうと 思ったら、の表情を見て固まった。なんて、いうか、そうじゃなくて、 うっかり目を奪われた。彼女は、馬鹿みたいに、笑っていた。 それも至極幸せそうに。今まさに世界一ハッピーだと言わんばかりに 顔をくしゃくしゃにして笑っていた。

「なにぼーっとしてんの総悟。早く行くよ」

以上に、きっと、今している俺の表情の方が土方なんかから見たら爆笑もんだろう。 まさかこんな風に彼女に笑ってもらえるなんてついこの間までは知らなかったし、 知りたいとも思っていなかったから酷く戸惑った。だけどその戸惑いが嬉しいときたら 俺もとうとう末期だろう。

とにかくに顔を見られないよう誤魔化しつつ、「へいへい」と適当な相槌をうって鞄をとった。 下駄箱に行く途中、廊下で会ったすれ違った近藤さんがついさっき思いだしたようなそんな単調な声で 「お前ら付き合い始めたのか」って聞くもんだから 腹の底がむずむずした。 俺達は目を見合わせ繕うように笑ってみたが、実際は大いに照れていた。

( 若葉ちゃん宅の十万打コラボ企画に提出させていただきました // 20091012.慧 )
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