それは私にはあまり大して重要な問題ではなかった。 そもそも、恋というものは思い込みから始まる幻想だと誰かが言っていたような 気がする。同年代から聞く、あいつとあいつが付き合い始めだの、好きでもないのに ヤっちゃったなど、今付き合ってる彼氏と別れたいだの、ぶっちゃけ二股してる だの、くだらない話が私を一層恋愛というものから遠ざけているのかもしれない。 そういう話を聞いただけで、恋愛も結婚もしたくない。と思ってしまうのが 当たり前なんじゃないだろうか。むしろこれで恋愛をしたいなんていうひとが いたら会ってみたいものだ。なんて、言いつつも私の周りの友達たちは 恋をする。私からすれば恋に恋をしているような気がするのだが、彼女たちはみな そうではないと否定する。躍起になって今度の人は絶対だからと言って 結局また駄目になる。そんなもんなんだろうな、人生って。 勉強は嫌いだけど恋愛は好き。そんなもんなんだろうなあ。まったく私には理解 できないけど。

「そうそう、恋愛なんてな妄想に毛が生えたもんでさァ」

私は制服のスカートの裾を手で押さえ、声のする方を見た。屋上へと続く近道 階段のところで彼が何とも言いようのない笑みを浮かべていた。 此処で私たちはよく会った。さぼり仲間、とでも言ったほうが良いのだろうか。 少なからず総悟と私はこの場所で出会った。アイマスクを首からひっさげて 人を小馬鹿にしたような笑い方。きっとこいつはこの笑い方しか出来ないんだろうな、と つくづく思う。けれど、さっきの言葉に疑問を感じた。 私は果たしてどのように返答すべきか。

「例え相手がブスでも俺の女が世界で一番、って思うもんでィ」
「それって馬鹿なの?」
「馬鹿なの。馬鹿以外の何者でもねーや」
「絶対そんな風になりたくないし」

身体全体が砂糖になったんじゃないかって思うような真似だけはしたくない。 そんな傍から見てばかばかしいことでも、見栄なく考えてしまえるようなそれは 本当に怖い。

「でもな、、」

総悟の声はいやに神妙げだ。

「案外そう思うのも悪くないんですぜ」

ほんの一瞬、私の傍にいるのは本当に沖田総悟なのだろうかと、思った。 なんだそんな笑い方もできるんじゃない。いつもそういう風に笑ってればかっこいいのになあ、って、 私も総悟相手にまかり間違って少し馬鹿になった気分だ。

嗚呼、そっか、案外そうなのかもしれない。


恋に落ちる、なんて、

映画の中のワンフレーズと思っていた
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