きっと外はじりじりとアスファルトが焼けついて日が反射している。 朝だというのにこの暑さは、何だ。馬鹿なのか、太陽一回死んでこいよ。 あーイライラしまさァ、んでもって土方もついでに死んでこい。

「誰が死ぬかァアア」
「あり、聞こえてたんで?」

どうやら心の中で思ったことも口に出ていたらしい。 俺は椅子の足二本を使ってぐらぐらと上下に揺らし、ノートに挟んであった下敷きで自らを扇いだ。 そこで初めて風がおこるわけだが、てんで涼しくはならない。 生温い熱風が頬と髪の間を通りすぎるだけ。

「あーもう、本当暑いんだけど」

俺達の斜め後ろで、女の声がした。数人で固まって、暑い暑いと言っているが、 それを見ている方が暑いってことが分からねェんだろうか。眉を寄せると、 言葉を発した張本人を眺め見る。隣のクラスの、だ。 最近よく俺達のクラスに顔を出すようになった、如何やら志村姉やチャイナ達と仲が 良いらしく今日も群れまくっていた。(あー暑い)

「おい、総悟。次の授業何だ」
「知りやせん、俺ァいつも睡眠学習派なんで」
「お前な」
「そこら辺の奴にでも聞いてくだせェよ。この暑さで死にやがれ土方」
「死んでたまるか」

そこまで言ったところで、すこーん、と頭に軽い衝撃を受けた。 がたっと音がして宙に浮かんでいた椅子の足が地面へと落ち、 同じように転がった空の弁当箱。俺は後頭部を少し抑えて考えた。 こんなことをする奴は一人しかいない、と。

「何すんでィチャイナ」
「五月蠅い黙れヨ、お前ら」
「何で俺もなんだよ」

不機嫌そうに土方が言う。どうやら奴には箸箱がぶち当たったらしい。いい気味でさァ。

「アンタらの方が見てて暑っ苦しいんだよ、散れ」

ぎ、と睨むとそこで戯れていた女子達が蜘蛛の子を散らすように離れた。 その順応な反応は思わず癖になりそうだと笑みを零す。

「じゃあ神楽、私帰るね」

俺とチャイナがしばし睨みあっているとが手をあげた。 夏服の袖から白い腕が伸びる、細くて柔らかいその線に目を奪われた。 あれ、なんだこれ。いくら健全な男子校生だからつってたかが女の右腕に見とれる なんて、つい俺の頭は暑さでいかれちまったらしい。

「別に帰れなんて言ってないだろィ」
「いーのいーの、私も凄くあついからさ」
「どこ行ったって暑いのは同じでさァ」
「そうかな?」

はて、と小首をかしげて何時の間にか俺の目の前でが立っていた。 椅子に座ったままのこちらからじゃ、見上げる形になってしまう。 確かに彼女は蒸発しそうなほど顔が赤い。こりゃァ俺より重症だな。

「私の場合、沖田くん見てドキドキするからだと思う」

こんな風に喋ったのは初めてだというのに、なんて素直にあっさりと物言いをする女だろう。 してやられた感が胸の内の八割を占めていた。ドッキリ番組で仕掛けられた ターゲットのような気分だ。心臓がどくどくと脈打つ。目の前でが はにかんだように笑んでいた。

「あー、あちィ」

下敷きで熱くなった顔を扇ぐ俺の隣で、土方がしらけたように言い放った。





サマーガールの


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