五月晴れという言葉がよく似合う日曜日でした。 私達のお仕事には、休日とか関係なく毎日があります。 それは過激な攘夷志士たちがお休みなどしてくれないからなどの理由も様々ではありますが 、大きな原因の一つとしてうちの隊のトップに立つお方に仕事をサボるという部下泣かせな 癖があるからです。そして毎回泣かされている部下の私は、彼を探さなければならない役に いつも任命されるのです。 賑わう大江戸の下町を隊服姿でうろうろするのは隊長にやめろと言われているのですが その言う本人が見つからないとなれば話は別。私は、一生懸命地を駆けます。 真撰組、その名の通り江戸で言う警察ですが、下町の人たちにはあまり良い目では見られません。 少なからずそれは、派手にやらかす交戦の影響もあるに加え、一部の者が衝動的に公共物を破壊したりする 行動によるものだと副長が言っていました。ちなみにこれらすべてにうちの隊長は関わっている場合 が多いのです。新聞沙汰にまでなるほどなので、江戸で真撰組と言う名を知らない人は居ないと思われます。 よって、私たちが走れば、人々は道を避けるし、歩けばひそひそと何かしら噂を囁かれます。 だけど私も含め多くの隊士たちがそんなことを気に止めることはありませんでした。 そんな肝の座っていない輩は、ここにはいないのです。訂正すると、上に立つ人たちが 滅多なことでは動じないお強い方たちばかりなので、部下も自然とそれに慣れ、馴染んでしまうのでしょう。

まだ暦の上では初夏。けれど、この暑さではどうも袖の長い隊服が鬱陶しくなってくる時期です。 シャツが汗で肌にはりつくのを感じながら、私は一生懸命彼を探しました。 駄菓子屋、橋の下、裏路地、女子プロレス観戦場、思い当たる場所すべてあたっても彼は居ません。

「どこにいったのかしら」

独り言のように呟くと、いつの間にやら辺りは真っ赤に染まっていました。 どうやら一日中私は走りまわっていたようです。 首元に感じる圧迫感を、そこで初めて感じました。隊長を探すためだけに 一日も無駄に費やしてしまうなど、全くもって私に意味をなさない仕事だったように 思えたからです。めるで見えない首輪を彼にされているようで腹立たしかった。 不思議なもので、腹が立ってくると自然とお腹もすくようで虫がぐうと鳴りました。 聞いている人もおらず恥ずかしもせずに胤を返すと仰天しました。 沖田隊長、その人が斜め後方で寝転がっていたのです。

「居たんですか!」

まさに目と鼻の先とはこのこと。この蒸せ返るような暑い中、隊長は鬱蒼と生えた 草むらの中でずうっと寝転がっていたのでしょうか?日に焼けて紅くなったのか、 それとも夕日でほんのり朱に染まっているのかはわかりませんが、頬が少し赤らんでいました。

「ずっと探していたんですよ、沖田隊長」
「ああそうか」

傍に寄っても彼は起きる気配を見せるどころか、空をじいっと見たまま微動だにしません。 不審に思って覗きこめば、どけと一刀両断。どうしようもない怒りがじわじわと沸騰してきてしまいます。

「私がどれだけ探したと思っているんですか」
「知るかィ探してくれなんて俺ァ頼んでねェや」
「いい加減にして下さい。一隊長ともあろう人が部下に尻拭いをさせないで」

語尾を少し強めに言うと、彼は一寸静かになり、何を思ったのか勢いよく体制を起こしました。

「なあ、。お前、空を見たことがあるか」
「はあ、」

いきなり何を言い出すんだこの人は、とそう見遣ると呆れたように隊長は肩を竦めました。 話を逸らされているようで気分の悪い私と、その私を少し小馬鹿にしたように扱う沖田隊長。 私達の間にはどうやら温度差があるようです。

「人間は空を語ったりするが、空は人間を語らない」
「…おっしゃっている意味が私には理解できません」
「空を見ているようで見てない、って事でさァ」
「はあ」
「要するに、お前は俺を見ているようで見ていない」
「…隊長?」
「今日は一日かかったか。…次は半日で見つけろィ」
「それってどういう意味ですか?」
「どういう意味かなんざ自分で考えろよ」

湿気の含んだ空に、隊長の寝起きでからからの声が響いていました。


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