雨がさめざめと泣いている
夜中の時計は午後二時を指さして、時を告げる
真夜中に蟻の行列が進行していた

むゆう病

その天井は何の変哲もなく、そこにあった。 空っぽな部屋かと思いきや隣には無造作に散らばった着物の残骸が目に映る。 一旦考えるのを放り出して、もう一度思い直した。布団に手をつくと しなやか腕に縋りつくような形になってしまう。彼の腕だった。 「総悟」 まるで死んでいるようだった。 亜麻色の髪は四方八方散らばって、外で食い入るように見つめる髪色とはまた少し 違って見える。頬に手を添えると、ひんやりと鉄のように固くて冷たい。 アタシの手が胎児のようにぬるい温度だからだろう、と彼が教えてくれているみたいだ。 「総悟起きて」 ほんの少しだけ首元に手をスライドさせると、咽元の少し窪んだ部分に親指を添えてみた。 そこで脳裏を掠めたのは、蟻の行列。真っ黒い服に身を包んで、白い角砂糖を皆が運んで、 さめざめと泣いている。 ぷつん、と途切れるようになみだがこぼれた。 「い、かないで、」 彼を掻き抱くと、鼓動が跳ねるように身体を震わせた。まなこを開いた総悟は、訳が分からない、みたいな言葉を発しつつもその分からない状態のままでも 本能的に抱きよせてくれた。額をぴとりと胸に寄せると、とくとく聞こえる心音。 一人で勝手に安堵して瞼を落とすと「おい寝るな」と声が降る。 アタシは抱きしめる力を強めた。彼の一部になってしまえたら、いいのに。 「おやすみなせェ、」 髪の毛を撫でる彼の仕草。手からは太陽の匂いが零れた。 夢の中まで追いかけてくるような総悟の声を子守唄に、再び眠りに落ちる。 「今度はいい夢見ろィ」 ほんとうに、ほんとうに、愛しているから おいていかないで ( 総悟が死に戦に行く夢を見ました )
inserted by FC2 system