そう私は今日怒っているのだ。以前から総悟がモテることは知っていたが まさかここまでとは知らなった。それは朝の靴箱から始まり、机の中、はたまた休み時間の 呼び出し回数。同じクラスに彼女がいるからなんて、恋する乙女には関係のないことだったよう。 ていうかさ、普通靴箱からばさばさーってチョコが落ちてくる場面とか漫画の中だけだと思ってたわけですよ。 ひくわー、まじひくわー。まあ、土方さんの方が彼女いない分、大変だったみたいだけど。 総悟は、鬱陶しいからと言ってその日一日はずっと教室から姿を消していた。 きっと屋上やら保健室やらでサボっていたに違いないと私は思っている。 正直に言えば、探していたのだ。 私だってそりゃ好きな人に一生懸命作った本命チョコを食べてもらいたいという 人並の感情があったから、今日一日ずっと総悟を探してた。 だけど彼を見つけることは不可能だった。メールを送っても返事は返ってこないし、 ねえこれってどういうこと!あっという間に放課後だよ。

というわけで、私はもううんざりです。
探すのも面倒くさいので今日家帰って自分で食べますこのやろー。

「総悟のうんこやろう!」

本日何度目かの屋上で、夕日が沈むのを見つめながらフェンス越しに大声で叫んでやった。 嗚呼私、青春だわ。なんて、ばっかばかしい!かーえろ。くるりと胤を返したら ドア口に立ちはだかる人の影。首にアイマスクを引っさげた、一番会いたかった人。

「ひでェ言い草だ。彼氏が肥満の危機に陥ってるっつーのに」
「黙れ。あんたなんてメタボってしまえ!」
「まあまあ落ち付きなせェって。俺も一生懸命だったんですぜ」

そういう総悟は眠たげに欠伸をする。ぜったい、うそだ。寝起きの顔してるもん。 どうせ、どこかいい場所でも見つけて一日中寝ていたに違いない。 そう考えると探し回っていた自分がまたまた馬鹿らしくなる。

「私は今日怒ってるの!」
「俺ァ女の嫉妬は醜くて好きですぜ。」
「勘違いもいい加減にしてください。」

切り捨てるように言うと目線も合わせずその場を後にしようとした、ら、 「何よ。」

私は肩を揺らした。正確には揺らされた。総悟が私を掴んで引き寄せたからだ。 それは、互いの髪がくすぐるほど近く、耳まで血が昇るくらい。

、」
「離して。」
「甘い匂いがしまさァ」
「ちょっと、総悟」

渾身の力をこめて相手から離れると、彼は未だ不服そうな顔で考えこんでいる。

「予想外だ、」
「え?」
「いや、俺ァてっきりあんたが嫉妬してるもんだと思ってたんですがねェ」

違ったみてェだ、と気の抜けたことを言う。思わず脱力してしまった。 思えばこの人は「どうして逃げてたの?」

「アンタが嫉妬する顔は見てェがそれ以外の相手は面倒くせーだろ」

総悟は本当にストレートに物事を言う。それがいいところでもあり、悪いところでもあるということは 私は知っている。先ほどまで触れられていた肩が熱い。私は、引き留めてほしかったんだ。 本当は嬉しかったの。

「私は…ずっと探してたんだけど。」
「知ってやす。」
「どうしてメール無視したの」
「だから寝てたんだって」
「むかっつく!」

煮えくりかえった腸をぶつける術がなくて総悟に抱きつく。 まるで突進するみたいに強く胸に飛び込むと難なく抱きしめられた。 嬉しい反面、やっぱり悔しいから少しだけ胸を叩いてやった。

「やべえ、」
「何が」
「予想以上だ。」
「だから何が、」
「あんたを今すぐ、食いたい」
「は!」

突拍子もない彼の発言に危うく腰を抜かしそうになる。チョコレイトの入った鞄がゆらゆら揺れた。 それを見て総悟が屈託なく笑う。何もかも見透かしたような瞳をして 鞄を見遣ると「そうだなァ、」と気の抜けたように言葉を発した。

「今から三秒以内に渡せたら我慢してやってもいいぜィ」

いきなり何を言い出すんだこの男は。私が唖然と彼を見た瞬間からカウントは始まった。 慌てて鞄をひっくり返す、そこらじゅうに化粧ポーチや手帳、携帯、のど飴なんかが転がった。 けど、どれが落ちたとか今気にしている場合ではない。鞄の奥底に眠る、赤いリボンのかかった袋を取り出すのに必死だ。

そして顔をあげたら総悟が清々しい笑顔を浮かべて私を見下ろしていた。

「タイムオーバー」

にやり、と悪魔が口を歪ませる。背筋から汗が伝うと、私は尻持ちをつく形で 地面に転げた。

「や、っだ!何こんなとこで盛ってんのよ!」

たくしあげられるセーラー服に、開かされる足。割って総悟の体が入る。

「抵抗すんな。縛るぜィ」

スカーフを手の上でひらつかせる総悟に私の身体が反応する。 縛られると何かと不便で困る、此処は大人しく…なんてできるか!

「せめて保健、しつ、で、…」

私が出した最期の提案も虚しく却下され、熱の籠った瞳で見つめられた。

「俺のために汚れろ」



チョコレイトマドンナ
(アンタから甘い香りがするのが悪いんでさ) inserted by FC2 system