何をどう思って私がそういう行動に出たのかなんて、あんまり覚えていない。 ただ感じたのは機械特有の冷たさとそれを押す自分の指。 電話番号なんて知らなかった、知ってるのはメールアドレスだけだった。 だから話がしたいって文字で伝えることしかできなくて、絵文字も何も つけていないその飾りっけのない手紙はすぐに相手へと届けられた。 彼はもしかしたら機嫌がよかったのかもしれない、返事はすぐにかえってきた。 今、飲みにきてるから無理。電話でいいか? 宛名には沖田総悟の名前、それを見るだけでどきりと胸が締め付けられる私は けっこう重症なのかもしれない。 でも私電話番号知らないから、と送ったメール。 返事の変わりに知らない番号から午前2時、電話が着信。

「もしもし?」
「もしもし?」
「…もしもしー?」
「もしもーし」
「……総悟?」
「おう、」
「あ、なんかごめん。わざわざ、」
「いいぜ別に。」
「今大丈夫?」
「あー…ちょっとならな。」
「酔ってる?」
「いや、全然平気でさ。で、急に何でィ」
「や……うん、…」

ごくりと息を呑むと自分が酒臭かった。 飲んだ勢いで言おうなんて魂胆が腐ってるのかもしれないけれど、 こうでもしないと彼に思いを伝えることなんて一生出来ないと思ったからだ。 胃が逆流しそうな勢いできりきりと締め付けられる。

「知ってると思うけど、私総悟のことすきなんだ」
「…ああ、」

何か納得したような、どこか諦めたような総悟らしい肯定の言葉が聞こえる。 ピークに達した私の緊張を解す様な沈黙が落ちたあと、「あのな、」 と彼が口を開いた。まるで、近くに彼が居て、耳元でしゃべってくれているようだ。

「正直なこと言いますぜィ」

ぼんやりと、電話っていいなと思った。 本当は今すぐにでも顔が見たいけれど、私の表情を見られるなんて御免だから やっぱりこれで良かったのかもしれない。携帯電話という機器を生み出した 人は凄いなあなんて思ったりなんかもしつつ彼の言葉に耳を傾けた。

「あんたは面白くて、すっげェいいやつだと思ってる。けどな、」

ああ、此処まで聞いて気持ちは分かったよ。 それでもちゃんと最後まで「今はそういう風には考えられねェ」と言ってくれた。 逆流しかけた胃の中のものが一気に静まり返っていた。 でもなぜか酔いだけは醒めていて「そっか、ごめんね。」と思わず笑いがこぼれた。

「じゃあ、」
。」

切りかけた電源、押そうとした指がその声に反応して止まる。

「ありがとな。」




love calling
「ううん、こちらこそ。この気持ちをくれてありがとう、総悟」
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