通りすがった看板は血がべったりとついていた。これを彼がつけたのだろうか、
否、その言い方は語弊が生まれる。それは彼の血ではない、他人(ひと)の血だ。
切り離された車体と、壊された列車の窓ガラス。千切れたカーテンに錆びついた鉄車輪。
残骸となって残っていた塊は見るも無残な形だった。爆破されたところが焼け焦げて、
死体の腐敗臭がする。頭の片隅にとてつもなく大きくて重たい、恐怖が植え付けられた。
私がそこに到着した時には、煙幕が漂っていて息も呑むような惨劇さが残っていた。 総悟を始めとする真撰組男連中は負傷している者を含めて一つの場所に固まって座っていたり、 寝転がっていたり、…いや、これは寝転がっているのではない。既に事切れている状態で 仰向けになって倒れている。普段の平穏な日々から引き剥がされたように感じ一瞬で私は その場から動けなくなった。地面に溢れ流れる夥しい量の血液。ああなんと人とは虚しい生き物、 脆くて弱くて刀が胸を貫いただけでさえ死んでしまうのだから。だったらあの人だって、 同じだろう。私がいつものように料理で使う包丁で、彼の肢体をつついたのだとしたら きっと死んでしまうんだろう。なんて恐ろしい。 「、どこ見てる。」 金縛りにあった私を一瞬にして解放する声が聞こえた。 総悟は虚ろになった私の目に光を戻し、やがてこっちを見ろと言わんばかりに刀の唾を鳴らした。 その行為にきっとなんの意味もない。刀を抜いたとしてもその刃が血濡れていることくらい たやすく想像が出来るから。 「総悟。…生きてた、」 開口一番がそれか、と呆れたように彼はこちらを見た。 ただし呆れていたのは彼だけではない。私の方がずっとか、自分に呆れていた。 姿を見た瞬間から生きていることは分かっている、息をしてこちらを見ていたことも知っている。 だけどそばに寄ってその肌に触れて温もりを感じないと不安になるくらい 私は怯えていた。心なしか震える冷たい指が生暖かい総悟の頬を包む。 ところどころに飛び散った血液が乾いている。 「総悟。」 「生きてるから、」 ずっと座って刀を抱えてた総悟は見かねて私を抱き寄せた。 私はきっと身勝手だろう。真撰組のみんなを一番に心配しなければならないはずの人間が、 真っ先に沖田総悟という恋人の元に死んだ者の屍を越え、駆け寄って、こうして安堵しているのだから。 安心しなせェ、総悟は何かを悟ったように小さく笑った。 まるで私の罪深き行為を受け止めるかの如く、 「俺が死ぬわけねェだろィ」 あなたはそうやって私を無理矢理言い丸めて、(独り)(、戦いの螺旋に身を置くのね。)
spiral
20080905.アレ、手当てする話が書きたかったのに…!
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