非常に面倒くさい自体になった。俺は転がりこんだ女の家で携帯をつついた後、そっと降ろした。 まくしあげたTシャツが揺るかに落ちて、またまくしあげる。何かベットから這い上がってくる気配がしたが それに気づかない振りをした。ぼんやりとクリーム色の壁を眺めると染みが一つ、 煙草を無理矢理押し付けたような黒ずんだ痕が残っていた。

「起きてたの?」

ふんわりと背後からバニラアイスの匂いが鼻をくすぐった。俺の首筋に毛先の細い線が伝い女の髪は長く 音を立てて揺れている。振り返るのも面倒くせェや、と目を伏せる。ずくんと胸が高鳴って、頭が 鈍く痛んでいるのはきっと昨晩記憶を失うほど呑みくれたせいだろう。ただ、わざとらしく気を引くような バニラアイスの香水が苛々とさせる。

さん、煙草くせェ。」

首元に絡み付けられた腕に絞められるような感覚を覚え、咄嗟に振り払うことをした俺は女の顔色を伺わず 少しだけ離れベッド近くの窓を開いた。けど部屋に流れ込むのは排気ガス混じりの淀んだ空気ばかりで脳内 の神経をちりちりと焦がしていくようだ。煙草臭いなんて嘘、本当はこの女に触れられることに嫌悪している。

「また雨?嫌になっちゃう。」

さんの声は少し低い、憂鬱なのが肌で感じ取れるほど不機嫌で割りに合わないとぼやいてはライターを 灰皿に投げ入れている。まるで、(子どもじゃねェか。)この人はとても寂しい人だと思った。否、俺の元に 訪れる女達はほとんどがそうだ。どこかしら心に重たい石を乗せて俺に助けを乞うように群がってくるのだ、それが 女の性だとしたら、とてもじゃねェけど対応仕切れない。だけど俺は、ボスに出逢わなければきっとこれらの雌以下だった だろう。汚れた溝で真っ黒な糞にまみれて死んじまってたに違いねェや。そう考えて、今日初めて女の顔を 見るように振り返った。さんはいつもの癇癪を起こして灰皿を壁に叩きつける、でも女の細腕じゃァ灰皿は簡単に割れる ことは無い。すると昨晩に俺の元へ来た時のような酷く傷ついた顔をした。ああ、目が回る。この人がこんな表情を するだけで俺は可笑しくなっちまう、まるで玩具が壊されたような気持ちになって胃や腸が捩れちまう。

「物は大切にしなせェ、そんなことばっかやってたらいずれアンタの手元には何もなくなってしまいやすぜ。」

今度はライターを投げようとしたさんの腕を押さえ込むと、あまりの細さに内心驚愕する。同時に恐怖さえ感じた。

「総悟も居なくなっちゃうんでしょう。」
「俺ァアンタの物じゃねェ。」
「幾ら払えば私のものになってくれるの。」

篭っていた腕の力がするりと抜けたかと思うとさんは財布の口を解いて札束を俺に投げつけた。福沢諭吉が目の前を舞う、 でも俺にはそれがただの紙切れにしか見えないでいる。きっと今、物凄く冷たい顔をしているんだと自分でも分かった。 さんはこちらを見てただ怯えたような表情をする、その顔が俺にとって溜まらなくそそられることを女は知らない。 さめざめと泣き始めたさんに同情にも似た感覚を覚えつつも、露和になった彼女の肌に一番痕を残して痛がる場所に唇を寄せる。 ああほら聞こえてきやした。苦痛の声に、顔を挙げると歪んだ顔。周りはこの人を大人の女だ言う、けど俺にはそうは見えない。 この人は欲しいものが手に入らなくて癇癪を起こす子どもだ。

「困ったお人だァ」

けど、また俺も女と同じ幼稚だった。この手で救えるかもしれないと染められたさんの髪に手を伸ばす。 もっと俺だけ求めればいい、他の誰もアンタの世界に入り込む隙間もないほど俺を欲せればいい。 そんな言葉が喉で飲み込むと、嘲笑ってさんを押し倒した。




人生はルーレットゲーム

(アンタが俺のものになるって言うんなら話は別だがねェ)


thanks:)ProjectGS
参加させて頂き有難うございました:)慧  inserted by FC2 system