ー、腹減った。」
「は?さっき世界で一番美味しい料理を食べたじゃんか」
「アンタの料理なんざァ世界で比べるのさえ失礼でさ」

殴るよ?と言う前にべちーん軽く一発気持ちの良い渇いた音がした。 総悟が何すんでィと不機嫌そうに後頭部をさすっている。それでも 私の布団の上を占領し、寝転がって雑誌を読む手を進めている沖田総悟、私の恋人。 見ていたページに料理のレシピが載っていたらしく、後ろから 覗き込んでしまった私も何か口の中が寂しく感じ始めてしまった。

「総悟、プリン食べたいー」
「自分で買ってこい」
「総悟は何が食べたい?」
「…俺アレ。ポテチのコンソメ味が今すげェ食いたい」
「じゃ、買ってきて。プリンもついでにお願い」
「俺を使おうなんざ百年早ェですぜ、。」
「だって外、雨降ってるもん」
「大丈夫大丈夫」
「それに暗いしさぁ、襲われたらどうすんの」
「襲うの間違いじゃね?」
「不公平だよ!ジャンケンにしようよ、総悟」
「…しょーがねェなァ、」

渋る総悟の腰辺りに抱きついて、必死に頼み込んでいたら鬱陶しくなったであろう彼が 雑誌を放り投げてこちらに向き直った。

「一回勝負だからな」
「おうよ、じゃんけんッ」
「ほい。」

…あ。私の好きな総悟の手は拳の状態で出ている。そして総悟より一回りほど小さい私の手は いっぱいに広げられていた。私の勝ちじゃん。

「やったァァァ!」
、あっち向いてー?」
「ほい!」

…ちょ。条件反射的に左へと向いてしまった私は、しまったと総悟を見遣る。その指先が向いている 方向は私と同じ左。彼の口端は吊り上って目が三日月のように細められた。 と、ここで混乱するこの頭の中を整理してみよう。あれ、私達やってたのジャンケンじゃね?

「はい、アンタの負け。玄関に追いてある俺の傘使ってもいいですぜィ、有料だけど。」
「ちょ、待っ、ジャンケンじゃなかったのォォォ!」
「ジャンケンから続くあっち向いてほいでさァ」
「何それ超うざいんだけど」
「いってらー」

うざい、何こいつマジでうざすぎるんですけど。手をひらりとしただけで、総悟はこっちも見ずに 雑誌へと手を伸ばしている。その後頭部に一発ぶちこみたくなったけど我慢した私を誰か褒めてほしい。 部屋に落ちていた総悟のパーカーを引っ掴むと腕を通して玄関先へと走った。ああ、私スッピンだ。 まァいいか、近所のコンビニだし。なんて悶々と考えて玄関のドアノブを捻ろうとした瞬間、

「ついでにコーラも買って来てくだせェ、

あまりにムカついたから返事もロクにせず、乱暴にドアを閉めた。 外はやっぱり雨が降っていて風も少し冷たい。総悟のパーカーがやけにあったかく感じて 着てきて良かったなぁと真っ黒な空を見上げる。どんよりとした厚い雲がさあさあと小雨を私に 降り注いでいた。傘は自分のものを持ってきた。総悟の使うとまた後で何言われるかわかんないし。 とりあえず急ぐ理由も無いので駐輪場に止めてある愛用自転車の前を通り過ぎ、歩いてコンビニまで 行くことにした。何のプリン買おうかなー、焼きプリンか蒸しプリンか豆乳プリンか、あ、きな粉プリン っていうのもあったか。黒ゴマプリンもおいしそうだなぁ。総悟には嫌がらせにポテチのうすしお味を 買ってってやろう。そしてコーラはダイエットコーラにしてやろう。

「いらっしゃいませー」

そんなこんなであっという間に辿り着いたコンビニで買い物をしているとアイスも食べたくなって あれよあれよとカゴの中がいっぱいになった。

「お会計、4525円です。」

しまった。買いすぎました。ハーゲンダッツのアイス買うんじゃなかった、なんて後悔しても お金になるわけではないので財布を取り出して五千円札をレジへと置いた。明日から節約生活決定 ということで私は重たくなった袋をぶらさげてコンビニ出口の自動扉へと目を向けて固まった。 透明なガラスの向こう側に見えるのはあの憎たらしい後頭部、のはずだった。

「総悟!」

でもね、今はその後姿が愛しく感じるよ。




紹介します、私の大好きな彼です。

「おっせーよ、何分待たせりゃ気が済むんでィ。つか、お前何その荷物」








(20080511|総悟はきっとドSだけどあったかいんです、本当に。むしろ コンビニで四千円使う方が私にとっては驚愕な事実だったりします)
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