「キスしてもいいですかィ」
「嫌です。」

付き合い始めたばかりの彼女にきっぱりと言われてしまった。 予想はしていたが、予想以上の爽快な断りに落胆さえしてしまう。 俺の好きなさんは結構ドンくさい。洗濯物の入った桶を庭先でぶちまけたこともあるし (そん時はもう一度洗い直しで着替えを用意してなかった隊士達は慌てたもんだ)他にも 料理を作る時に味噌汁を作って魚を焼いていたら必ずどちらかは失敗する。どうやら一度に 同じ事を出来ないような不器用さがあるらしい。そんな彼女は俺のモン。手離す気なんてさらさらない。 だが、彼女は思っていた以上に綺麗でいわゆる天然と呼ばれる純白さを持っていることが仇になった。 このドがつく真性サドの俺でさえ、さんの白さには適わないほどだ。

「もう付き合って3ヶ月は経ってんですぜ?キスくらいいいでしょう、」
「…それって遅いの?」

恋愛に無頓着な、むしろ俺に対して無頓着なさんはぶっ飛んだ答えを返してきた。 いい加減分かれ、俺が我慢してることくらい。それとも何か、俺は男として見てもらえてねェってことですかィ。 確かに俺ァアンタより年下でさァ。だが一応年頃の男なんですぜ、好きな女にあんなことやそんなことしてーじゃねェですかィ。 周りは色々とやってんのに俺だけおあずけって…そりゃねーや。と、まァこんなことを悶々と考えているが いざ本人を目の前にすると言えたもんじゃない。彼女なら俺を苦しめるくらいなら距離を置く、否、下手すれば別れるとか 言いかねないお人良しさだからだ。

「第一、総悟くんはキスくらいなんていうけどさ…」

さんは初めて俺から目線を逸らして、夕日が差し込む縁側を歩き始めた。 彼女の背を追うようにして俺は首を傾げて次の言葉を待つ。涼しげな風が 春を思い起こさせる。

「私、初めてキスした相手と結婚するって決めてるから」

半身引いてこちらに顔を少し向けたさんの、頬が淡い桃色に染まっているのが見えた。 何だこの可愛い生き物は。ってェ事はあれですかィ、俺の伴侶になってくれると? あーもー、クソ。やべェや、そんなん反則だろィ。 白い首筋のうなじから目線を剥がした俺は衝動的に彼女を後ろから引き寄せた。

「だったら何の問題もねェや、」
「そ、総悟く」

不思議そうなさんの瞳いっぱいに覗き込んだ俺の顔には余裕なんてない。 俺にこんな顔させるなんてきっとアンタだけでさァ。だから、なァさん。 後生だから一生俺の傍に居てくだせェ。覆うように被せた唇から彼女の次の言葉は発することが出来なかった。 それから少しして、ぴったりとくっついてしまった俺とさんの唇が離れるとただ、彼女は呆気にとられたような顔 をして

「あーあ、もう総悟くんと結婚するしかないや」

困ったような、それでも嬉しそうな顔をして笑った。



なけなしの愛をひとかけ

(20080418|年上ヒロイン書くの楽しかったです)
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