「そうごそうごそうごそうご」
「煩せェ。」

ぴしゃりと言われた相変わらずのその言葉に肩を竦めると私はただ彼の澄んだ瞳を覗き込んだ。 ただ怪訝そうに整った眉を寄せて何でェ、と不機嫌な声で返す。いつもより一段と声は低くて 私の耳へと響いた。総悟の瞳の色を伺ったのだった、今彼は綺麗な綺麗なガラスみたいに透き 通った瞳をしている。ミツバ姉さんが亡くなった時は坂田さんみたいな死んだような魚の目、ううん むしろそれよりも酷い死んで腐った瞳をしていた。土方さんも同じだったけど。 私がミツバさんと会ったのはあの時が初めてでぶっちゃけそれまでは恋人の彼に姉が居るという 真実さえ知らなかった。思えば私は総悟の何一つ知らないのだ。というか、彼は一度も自分の過去 や生い立ちのことを私に話そうとはしなかった。ただ一回だけ、昔のことについて聞いてみたことはある。 けどサディスティック星の王子様はそりゃもう口先は上手いものだから曖昧に誤魔化された。 それからはあまりそういう話題を私が避けてしたことがなかったのだ。 そして運命の日は突然やってきて、彼女だと紹介されたのは総悟のお姉さま。 まさか一気にご家族に挨拶になろうとは微塵も思っていなかった私は前の日の仕事が あまりに過酷過ぎて2時間睡眠だったため寝起きの頭ぼっさぼさ状態プラスノーメイクだったのは言うまでもない。 そんなみすぼらしい私に、彼のおねーさんは…ミツバさんは優しく微笑んでくれたことを覚えてる。 総悟には失礼だがあの姉からこの弟なんて考えつかないほど綺麗な人だった。

だけど、いやに白かった。

それは生成り色でもなく、無に返すように純白色。目が痛くなりそうな、哀しげな色をしていた。 彼女は色濃く迫っている日々にどこか諦めたような境地を見つけていたのだった。 私は、この仕事柄そういうのには敏感な気がする。生きることを諦める瞬間の相手の表情なんて 見れば吐き気がするほど生気などないのだ。その後は見るも虚しい鮮血の痕。(まァ私が斬るのだから当然だろうが、) (そこで慈悲なんて持ち合わせちゃいないのだよ)

「総悟、」

総悟という名前は本当に良い名だと思う。でもあんたはその名の通り、総てを悟ってたはずなんだ。 自分の姉はもう長くない、と私に話してくれたのはその日の晩だった。ばたばたしてて全然 一緒に居れる時間もなく総悟達幹部はみな、ミツバさんのことで神経を張らせていたから私たち隊士は 彼らがそちらへと気を張れるようにと淡々と仕事をこなすしかなかったのだ。土方さんはそのお手本になって いたに違いがない。その晩も私は総悟の部屋に泊まる手はずだったのだけれど、彼の機嫌はあまり好ましくはなかった。 不機嫌というよりは、落ち込んでいる。そんな雰囲気が当てはまっていた。本音をいうのなら傍に居たいと思ってたんだよ。 でもね、それは拒絶されちゃったんだ。

「…もう、あんな顔してないんだね。」

鬼嫁片手に飲みまくる総悟を他所に私は呟いた。

「姉上の死ぬ時以上のことがなきゃ、あんなシケた面しやせんぜ。」

放っておいたらいつの間にか彼はいつもの調子に戻っていた。だからこそやっと、部屋にやってこれたというのに このザマだ。Owee騒ぎの時はあんなに生き生きしてたというのに。(全く男というものは、)(弱い) 絶対に私に飲ませても自分は飲まない総悟が今日は頬を少しだけ紅くしていた。弱さなんて要らないとでも思っているんだろうか。 何故何故なん、で、

「なんで私に何も言ってくれないの、」

本音だった。総悟が大切だから何よりも一番だから、それ以上もそれ以下もないの。 世界を拒絶しないで、私を拒絶しないで、私は、あなたの一体何?

、そろそろ黙ったらどうでェ」
「嫌よ。」
「返事なんて聞いてねーや」

黙れと言わんばかりに口を塞がれた。生暖かいものが口内の中に滑り込んできて 乱暴なキスとは違って優しく私を愛撫する。でも総悟のそれは私の酸素を奪うためにある。 きっと窒息死させる気だ、なんて被害妄想に駆られていると歯裏をなぞられてぞくりとする。 しまった。流されてたよ!こんなの嫌だ、やだやだやだやだ!そうやって脳内が警報を鳴らすと 条件反射的に私は彼の唇へと噛み付いた。

「…っ」

鈍い音と共にみるみる歪んでいく総悟の表情。口端にじんわりと紅い斑点が浮かび上がる。 思わず綺麗だと思ったんだけれど、その反動か分からない。涙が溢れて零れて嗚咽となって ただただ総悟を見つめたんだ。

「もし私が死んだら、どうする?」
「アンタが死んでもあんな顔はしねェ。」

あっさりと私を脱がしたあとは不用意な感情などまるで捨て去るように上着を放り投げて総悟も脱いだ。 背に回される腕にまたぞわぞわしつつ、パチンとブラのホックが外れる音を耳にした。 (それは私に手向ける顔などないという意味?)(それとも、)(…ねぇ総悟、その真意を教えてよ)



殺されたジントニック

(20080326|ミツバ編ネタをどれだけ引き摺れは気が済むんだあたし!)
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