「ねえ、。泣くほど人を愛するってどういう感じ」 「泣かない人には分からない話だから、それ」 「酷いなァ俺だって泣くこと…あ、そういえば俺泣いたことないや」 「ほおら見てみなさいよ」 「あれ、おかしいなー」 「もういいでしょ、」 「ねえねえ泣くってどんな気持ち?」 私はまとわりついてくる彼が鬱陶しくなって身体を無理矢理剥がした。 二人の間に熱の籠った体温が離れると同時に放たれる。なんて開放的な瞬間だろう、と ぼんやり考える。神威の真っ青な瞳は、今は見えない。彼が笑っているからだ。 「今俺のこと面倒臭いと思ったでしょ」 「分かってるなら聞かないでくれる?」 「あはは、は俺に対して厳しいよネ」 「私、幼稚な男は嫌いなの」 本当にそう思う。神威の場合、大人の男というよりは少年という言葉が似合うような気がする。 それを匂わせる理由はその容姿から考え付かぬ思想によるものだと思う。 弱い人間は興味無いだの、女と子どもには手加減するだの、強い者がいたら戦わずにはいられないだの、 すべてどうでもいいことだ。私は、神威が自分の手を血で汚そうが一向に構わない。 けれど、その手で自分に触れられるのだけが苦手である。 「お前、汚されるのが嫌なんだったけ」 「前にも言ったでしょ」 「ンーそうだっけ?前、此処に来たのいつだったか覚えてない」 だから嫌なんだ。いつだって突然彼は現れて、去っていく。 春雨だか団長だかよくわからないけど、私にとって神威は神威以外の何物でもないのに 神威にとっては私はただの女なのである。 「私の空間を、汚さないで。」 「ねえ、もう一度聞くケド」 薄ら笑う神威の瞳に燈る眼光が走る。初めて会った時、馬鹿みたいに綺麗なひとだと思った。 「泣くほど人を愛するってどんな感じ?」 この肩の震えはきっと恐いからだなんて言い聞かせて、背を向けた。 神威はきっと私が皺だらけの年寄りになったとしてもこの心を強く掴んで離さないんだろう。 「ねェ、」 口元に浮かんだそれは夜に浮かぶ三日月を思い抱かせた。 (一歩外に出れば私のことなんて一瞬で忘れるくせに、)(どうして名前だけは覚えてるの) |