新撰組として刀をとるということは

  相手が死ぬか 己が死ぬか

  どちらかの選択しかないということ


























  「きいてまへん。」
  「………だって、俺言ってなかったもん」

  整った眉をすっかりと寄せ、綺麗な口元から不満気な声が流れ出た。
  香の香りと白粉の匂い。京の遊里の女は入れ込んではいけないと、誰かが言っていた
  決して心は渡さない。体は熱くも中は冷めている彼女は とても手強い。

  「…なんで、そんな危険な仕事やってますの」
  「新撰組だし、しょうがねぇよ」
  「藤堂先生。ご冗談はよして。ほんまにうち…どうにかなりそう……」
  「あっそう」

  眉一つ動かさずに、淡々と俺は言う
  だけど本当は、そんなの演技で、俺はすっげー彼女が好きだった。
  肌の白さといい、物腰の柔らかさといい、それでもどこか一線を引いて
  物事を、いや俺を見ている冷静な瞳。入れ込んでるはずなんて更々なかったのに、
  俺は仕事を終えると毎晩のように彼女の元へと通っていた。
  勿論、俺の仕事のことは言ってねェし、話すつもりもない。
  がそんな俺をどう思ってたかは知らないけど、訊かなかった彼女も彼女だと思った。
  けどそんな彼女が、いつもより多弁なのだ。それは俺の話をどこかで聞いたのかもしれない、と
  そう思ってまた酒の入った杯を口につける。

  「なァ、堪忍しておくれやす。そないなけったいなお仕事してはったなんて…」
  「なんでだよ。別にいつも危険なわけじゃねーし」
  「………」

  が黙ってしまったのでこれ以上言う言葉がなく、続く二人の沈黙。
  まるで彼女は俺を咎めるような目でこちらを見る。(そんな目で見るなって、)

  「うち、結構先生のこと本気やってん。」
  
  え!?目から鱗が飛び出そうなくらい、驚いた。
  が、俺を?いや、そんなまさか。

  「…そりゃァ俺だって気に入ってたよ。君のことは。」

  何の冗談だろうと思いつつ、平静を装って彼女を見た。
  しかしは先ほどチラリと目線を配せただけで今度はあわせてくれない。
  やはり、冗談か?

  「新撰組が京の町でなんて言われてはるか知ってます?」
  「壬生狼、でしょ。」
  「せや、狼や。先生方は狼なんよ。」

  それは、何を言い訳しても変えることの出来ない真実。

  「危険な、事に手を出さないで。」

  ぎゅうっと強く手を握られてを見れば、彼女は俯いたまま涙を流している。
  ただ俺は呆然として彼女を見つめた。泣いた、泣いた、遊女が、泣いた。
  客の前で、泣く女なんて初めてみた。そりゃ、夜事の時に泣く女はざらに見た。
  泣かせもすれば、啼かせもした。だけど今日のはいつもと違う。
  相違点があまりに多過ぎて今度は俺の心を惑わせる。(これも手の内か?)
  だけど、俺は焦ってた。凄く。なんでかなんてそんなの、分かんないけど。
  その口調がただの娘だということを教えてくれた。

  「。それでも俺は、君に会いに来るよ。」
  「…好きなんです。」
  「?」
  「藤堂さんのことが大好きなんですっ…」

  だからどうか、とせがんで泣く。
  でもどうしようも無い。俺は新撰組で、彼女はこの郭の遊女なんだから。
  その真実は曲げられない。それでもきつく、の身体を抱いた。
  組み敷いた彼女を見下ろすと、ゆっくりと顔を上げた。折角の化粧が、涙で台無しじゃん。
  これが罠でも嘘でも、構わない。騙されたっていいや、もう。




序、偽り、君は

















  アトガキ*20070919
  馬鹿な平助が書きたかったんです(!)騙されてるか、騙されてないかは、皆さんが決めてあげてください。
  ちなみに私は、騙されてないっていうか…騙してないでいてほしいな。彼女には。 慧*
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