ある放課後の夕暮れ差し込む教室で、私をじいっと射抜くその瞳。 堪らなく格好良いんだもの、嗚呼赤点取って良かった。補講万歳。

「聞いてんのかコノヤロー、誰のために時間削ってやってると思ってんの?」
「憧れだったのよね、放課後の教室で生徒の先生の燃えるような禁断の恋!」
「お前もう帰れば。」
「銀ちゃん冷たいー」

机から乗り出すと迷惑そうに銀ちゃんが眉をひそめた。 それはまるで私の存在を全否定しているかのようだ。

「お前なァ、学校で銀ちゃんって呼ぶなつってんだろ」
「何で?神楽も銀ちゃんて呼んでるじゃん」
「あいつはいーの。」
「ずるい!どうして神楽はよくて私はだめなの?」

銀ちゃん、と再確認するように呼べば坂田先生だろ、と言われた。 威圧するような声ではなかったものの、まるで聞き分けのない子ども 扱いをされているような気がした。こういうところで大人ぶる彼が 私はあまり好きじゃない。

「約束しただろ。が卒業するまで俺とお前の関係は黙ってるって」
「言ったけど、銀ちゃんって呼ぶくらい良いじゃない」
「だーめ。」
「私は、ただ、」

沸々と込み上げる何かを今回ばかりは我慢できない。 教卓が音を立てて揺れる。

「デートっだって滅多に出来ない、地元じゃ遊べない、テスト期間になったら会えるのは 学校の授業だけなんだよ?」

本当はもっと会いたくて、もっと近くで、触れていたいよ。

「坂田先生はそれでいいかもしれないけど、私は、」

他の女の子に笑いかけないでよ、私だけ見てて。胸が苦しくて張り裂けそう。 言っちゃいけない言葉だとわかっているのに止まらない、どんどんどんどん 気持ちが溢れていくんだ。分かってる、困らせたくないのに、一番困らせているのは 私だってことも。

「だから、」
「お前は本当なんも分かってねぇのな、」

俺の努力が報われねーとぽつり溜息混じりに彼が囁いた。 だけど後に引けなくなった私はそっぽを向いたまま動けないでいる。

「まあ、そういう学の無いところが好きなんだけどな」

再び教卓が揺れたかと思うと、私の身体が大きな反動を感じた。 気がつけば自分の体は大好きな人に預けられていて、銀ちゃんの匂いがした。 どうしてだろ、まったく感動的な場面じゃないのに嬉しさで胸がいっぱいになるなんて。 私は、それ褒めてないでしょと機嫌を直して振り返ると、 銀ちゃんはいつもの死んだ目なんてしていなかった。 いざという時に瞳をきらりと輝かせる彼の目が私に恋をしていた。





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