20071010 3年前の今頃、何してたっけなぁ。そんなことを考えた。 10月10日。ただキリの良い数字が並んでいるように 見えるけどもそれは大間違いってもんだ。1年前は大好 きな人の誕生日2年前は大好きな恋人の誕生日。…じゃぁ 今は?今の私は一体誰を待っているんだろう。最近貴方 は来てくれなくなったね、前は3日に一度は会えていた のに。そういえば、…この前会ったのっていつだろう? 指折り数えてみたけれど、両手の指が足りなくなってし まった。しょうがないからカレンダーを撒き戻して見つ めてみた。あ、そっか…私たち一ヶ月前に別れたんだ。 貴方から告げられる言葉にはなんとなく気がついてはい たけれどやっぱり長年連れ添ったせいか、中々離れると いう実感が沸かなかった。少しずつ、じんわりと、今更 になって空いた穴が広がって、風が通り抜けている。秋 風は冷たくて容赦ないんだと、初めて知った。貴方が居 たからそれだけであったかかったんだなぁなんて、アホ らしい。でも、「もういいかぁ。」口に出た言葉はそれ だった。一体何がいいんだろ、自分でも不思議に思う。

ケーキも焼かなかった。だって今朝方まで忘れていたん だ。って言ってももう別れたから焼かなくていいんだけど。 そう、私は、あんなに愛してやまなかった彼の誕生日を 忘れていた。熱が冷めるもんってこんなもんだろうか? 「絶対銀時以外好きにならない!」なんて意気込んでた あの若い自分が懐かしく思う。同時に、愚かだとも。

彼はいくら甘いものが好きで、私が焼いたケーキが好きだ としても、もう私のところには戻ってこない。なのに、 私の足は自然と大江戸スーパーへ足を運んでしまう。 「何やってんだろう」結局何も買わずに店を出たら、また あの秋風が頬を撫でた。今度は何故か冷たいとは感じない。 もう、肌寒くなってきたね。なんて答えてくれる人はもう居ない。 もう居ないのに、どうしてこんな気持ちになるの?

「なんだか最近肌寒くなってきましたねぇ」
「おー、銀さん昨日から鼻水止まんねーんだわ」

秋風が運んできてくれた、懐かしい声に立ち竦む。どうし よう歩かなきゃ、歩かなきゃ不審に思われちゃうのに一歩 も前に進めない。私はただ一点を見つめた。彼は相も変わ らず天然パーマが目立っていた。さっきまで寝てたのかな、 寝癖が酷い。そして彼の隣には眼鏡をかけた黒髪の少年と

「ぶえっくしょッ」
「まいけるじゃくそーんッ!」
「おま、も、そのネタいいから。」

もう片側にはピンク色の髪をした女の子。そっか、そっか、 見つけたんだね大切なもの。貴方がずっと求めていたもの。 安堵したような気持ちに襲われた、でもなぜか金縛りにあった みたいに身体が動かない。彼等は向こうから来るのに、ただ 私だけ立ち止まってて。そして、銀時と私は

目が合った。

一瞬、彼の動きも止まり私の1メートル手前で立ち竦む。

「おーい、銀さーん?」

不審に思った少年が、銀時に声をかけるけど周りの声なんて 聞こえていない。だって今、私を見て少しだけ目を細めてく れたから。私にだけ分かる表情をしてくれたから。

「知り合いアルカ?」
「・・・・・いや、」

再び私達は歩き出す。

「知らねーなァ」

そして私達は擦れ違った。ただ、彼の言葉だけが酷く優しく て愛されていた頃を思い出した。吐息を吐くような小さな笑 い声。

「銀ちゃーん、今日何の日だー?」
「え、何の日だっけ。ポッキーの日。」
「11月11日でしょォォォ!そのボケ面白くないですよ、銀さん。」
「じゃーメガネの日。」
「いや、僕の顔見ないで下さいよ。喧嘩売ってのか、アンタ。」
「違うヨ!今日は銀ちゃんの誕生日ネ!」
「わー、そっかー。じゃ、お前等50段くらいのケーキ用意してんだろうなァ」
「誰がするかァァァ!死ね、この天パ!」

渦巻く笑い声。滅多に見れなかった、銀時の笑顔が眩しくて思 わず振り返るのはやめた。これは恋でも愛でもない。そうじゃ ない。ただ、きっと、貴方が幸せであるようにと

いつまでもずっと。










「今日何の日だー」
「ポッキーの日?」
「え、何ソレ。10月10日をポッキーの日とか言う奴、銀さん初めて。」
「メガネの日?」
「いやいやいや、そりゃねーだろ?え、ちゃんそれわざと?」
「うそだよ。銀時の誕生日でしょっ」






思い出の残骸

(ただ、忘れていたはずなのに、秋風が穴を通り抜けた)
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