、俺はネ。大きくなったら人の笑顔を守れるような男になりたい














ちいさなはつこいのうた




















幼馴染の長倉君は小さな時からずっとで剣術に打ち込んでいました。





。」

「しんちゃん、聞いてー。最近わたし歌上手くなったのよ」

「…この前俺が下手だって言ったの気にしてた?」

「うん、ちょっとね」


二人はクスクスと笑い合って、夕日のさす土手を歩きながら話した


新八は道場帰りで胴着のまま、道具を肩にかけ

はその帰りをいつも迎えに行き、一緒に帰る



そんな毎日を繰り返して ずっと 繰り返して









いけるはずなんてなくて。






















真夜中に、こそりと忍びこむ影。



「…。起きて。」

開け放してあった戸から聞こえる新八の声に、はのそりと起き上がった

「しん―…ちゃ…?」

眠たげに目をこすりつつ、寝間着のまま顔を出す

少女の表情を見て少年の顔もやんわりと緩んだ



「よく、聞いて。」

「ん。どうかした?」

「俺…今から脱藩するヨ」


何を言ってるの、とはっきり目覚めたの顔が語っている



「もう俺も元服だし…いい大人だから。約束を守る時がきたんだ」

「言ってる、意味が分からない…」


震える声で見つめつづける少女の瞳。潤んでいるのはきっと気のせいだ、と




「一番に君に伝えたかったから」


ぎゅっと精一杯に握り締めた手は別れの合図




母にも父にも家族の誰にも言わないで 俺は長倉という名を捨てるから








一番に君だけに知っててほしかったんだ








俺という、幼かった自分と幼かった恋心






「い、いやだ…っ」

優しげに見つめる少年の目線が切ない


「やだよっ、行かないで!」


必死に首を振るの言葉も、今の俺にはもう届かないんだヨ



「最後に、歌ってくれない?」






帰り道によく聞かせてくれたあの下手な歌声を














「やだって言ってるのに………!」





目を閉じて、歌ってネ。


ずっと俺は此処で聴いているから






あなたは勝手すぎるよ

だけど残された時間はもうわずかで そんなことわたしだって知ってる




「分かったよ、新ちゃん」















ね 新 ち ゃ ん 。 突 然 過 ぎ て 何 が な ん だ か 分 か ら な い よ



だ か ら わ た し は ま だ・・・幼 い 子 供 の ふ り を し て て も い い か な



・・・・・・う そ 。 幼 い 子 供 の ふ り を し て た っ て 、 も と が 幼 稚な 恋 だ っ た ん だ か ら む り 。



ほ ん と う は わ た し に 言 え な か っ た ん だ よ ね ? 何 度 も 言 お う と し て 、わ た し が・・・遮 っ ち ゃ っ た ん だ よ ね ?



知 ら ん ぷ り な ん て 最 初 か ら で き っ こ な い ん だ よ

























歌い終わって目を開けたら、そこには新ちゃんのかわりに小さな花が置いてあった。








「うそつきぃ………」




少年の姿が見えなくなって、ぎゅっと強く花がしおれるくらいに両手でにぎった

俯いて零れ落ちる涙が花弁をうたう





初めてつかれた嘘の苦しさを知り、初めて恋の辛さを知った








「こんな小さな花一つで…新ちゃんのかわりになると思ってるの?」

















が大人になった日に


幼馴染の長倉君は小さな花になった


























アトガキ.

脱藩というものは本人の家族含む恋人や親戚にまで処罰が与えられる。
新八はそれを畏れて、自分の名前を長倉から永倉に変えたそうです。(史実)
二人はまだ幼かったからという理由で押し殺した恋だった、という設定


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