別に俺は統悟のボイコットやらサボタージュやらはどうでもよかった。 だけどが統悟を殴ったら、きっとこの女は一生後悔するだろうと 思ったから止めたんだ。出てった彼女が開け放ちた向こう側には真っ暗な闇と 空に広がる星屑たち。ああ、本当にめんどうくせえ女だ。刀を持って立ち上がると、 目の前に座っていた統悟が肩を震わせて顔をあげた。瞳いっぱいに大粒の涙をためて。

「どうせ、父上も母上も俺なんていらないんだ!」
「は?」

思わず出た言葉。何言ってんだこいつ、ギャグでも口走ってんのかと息子を見ると 彼女に似た瞳がじっとこちらを見つめてくる。どうやら先ほどの言葉は本当らしい。 一体何を思ってどう勘違いしたのかは知らねーが、呆れて俺は溜息もでない。 しかしきっと息子からすれば一大事なのだろう。自分の存続の危機でもあるのだろうから。

「…必要とされてェんなら自分で動け。」

母も父も居なかった俺にとって、唯一の存在は姉だった。 こちらからすれば、母も父もいる統悟が少しうらやましいような気もするわけで ほんの少しだけ試練でも与えてやろうと思う。 ただその道が正しいかどうかなんてわからねぇけど、自分で選ぶんだ。

「俺は、俺たちは、今までそうやって生きてきたんでィ」

かちりと刀の鍔がなる。統悟の勘違いの遺伝子は間違いなくから受け継がれたものだ。 だったらその当人を迎えに行かねェとなァ。さあ、お前はどうする?





歓楽街から路地裏まで歌舞伎町一体探したが、彼女は一向に見つからない。 俺を此処まで走らせやがって。あの馬鹿見つけたら容赦しねェ。 だんだんと焦ってくる気持ちを抑え、俺は唯一の望み(とも思いたくないのだが)である 万事屋のドアを蹴破った。

「旦那ァアア!見やせんでしたか、あのやろうどこ探したって見つからないんでィ!」
「あ、総悟…!」

彼女の髪がふわりと揺れて駆け寄ってくる。その姿を見て、安堵したと同時に刀を抜いた。

「テメェ、此処まで俺を走らせやがって土下座しろ。」
「えええええ、ちょ、まっ…!落ち付いて総悟、」
「いやいや、その前に沖田くん君さァ、うちのドア蹴破っ「くおうらァァア、このサド野郎ォォオ! おめー今まで何してたんだヨ!この脳無し下衆男がァァ」
「消えろチャイナ、今俺は機嫌が悪いんでさァ。殺すぞ」
「お前が来るのが遅いせいでピー野郎に犯されそうになってたんだぞコルァ!」

その言葉に自分の表情が歪むのが分かる。この女に言われたことすらも腹が立ってどす黒い何かで包まれていった。 落ちる沈黙にしびれをきらしたのはの方だった。

「ご、ごめんね!心配かけて、その「謝る必要なんかないネ。むしろこいつに土下座させればヨロシ、 おいよく聞けヨ、サド野郎。お前の嫁はなァ一回八万であんなことやそんなことされそうになってたアル。 それを助けたのはこの神楽様ネ!だから感謝するんだな、フハハ!つーわけで金よこせやコラァ」 結局それが目的なんじゃん神楽ァ!」

統悟といい、この女といい、この俺を少なからず動揺させる。 やっとのことで溜息を零すと刀を鞘へとおさめる。そこで待ってたと言わんばかりに 旦那までまくし立ててきやがる。あーあーもう煩ェや。ちらりと彼女の様子を見遣ると晴れ晴れとした 表情のがチャイナと云い争っていた。

「母上…!」

扉を直そうとしていた旦那を蹴とばして、勢いよく統悟が飛び込んでくる。 すいやせん旦那、いい気味でさァ。

「はは、う、え、ごめんなさ…っ」

ひっ、と嗚咽を漏らしたかと思うと統悟はびーびーと泣きだした。 お前男かと思うほど、大きな声をあげて大きな粒の水滴を目から流しては泣く。 旦那もチャイナも、そしても驚いて静かになった。

「統悟…?」
「ごめんなさい、おれ、聞いちゃったんだ!」
「聞いたって…え、何を?」
「はは、えが、がち…えのことがいちば、すきだ、ていっ」

あまりに統悟が泣きじゃくるので言葉を拾うのが大変だった。 要するにが俺のことを一番好きだと言ったことを統悟が盗み聞きをしていたらしい。 確かに全国大会のある前日、俺の隊服のボタンをつけるより先に 統悟の胴着を縫い合わせていたに対して「俺とあいつどっちが大事なんでィ」 と冗談を言ったら「統悟に決まってんでしょ。…総悟のことは一番好きだから」 と、あしらわれた時の言葉じゃねーか。え、何、こいつ。最後の部分しか聞いてなかったのか。

「だから、…どうせ俺なんていらないんだって」

やべえ、馬鹿だろこいつ。心配して損したじゃねェか。

「何でィお前。母ちゃんが俺のこと一番好きだなんて当たり前だr「そうだったのね!だから 、いやになっちゃたの?」
「うん、ごめんね母上。せっかくお守り…」
「いいんだよ、統悟。お母さんも、ごめんね。本当は統悟のことが一番好きなんだよ」
「あ?ちょっと待て、その言葉聞き捨てならねーz「だから泣かなくてもいいよ、統悟」
「ほんとう?」
「本当に…!」

俺の言葉をは明らかに遮って統悟を抱きしめる。やっぱりたまらなく息子がかわいいのだということが 彼女の背中を見ていたら伝わってきてむしょうにイライラする。まるで自分が邪魔者扱いだ。 未だに肩をびくびくさせて嗚咽を漏らしている統悟を見やると、さっきまで泣いていたのが 嘘のようだ。涙のなの字さえもないような表情での肩越しから俺を見るとニヤリと勝ち誇ったように笑いやがった。 …こいつ、確信犯だ。

「沖田くん、お前も大変だねぇ。ライバルが息子とかさァ。」
「ああ、全く侮れやせん。やっぱりこいつァ俺の息子でさ。」





Tarentelle
けどやっぱりむかつくので、旦那が再度直そうとしていた扉をぶっ壊してやった
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