朝12時…いや、昼の12時に起きた俺は欠伸をして洗面所の前に立った。 こんなに寝たというのにクマが酷い、チクショー昨日酒に付き合うんじゃなかったぜ。 なんてことを思いつつ顔を洗う坂田銀時(ピー)歳。年齢を聞くなんて野暮なことするんじゃないから。

「ったくよォ、神楽ちゃーんいつまで寝てんの。さっさと起きねーとお前の好きな昼ドラ始まっちゃうぞー」

洗面所から奥の部屋へと叫んだ。神楽は昨日の夜に酒を呑み、酔って寝てソファにダウンしちゃっている。 アイツ酒癖悪ィからなァ、やっぱり飲ませんじゃなかったぜ。なんて後悔は後の祭り。俺は顔を洗うと、鏡を見た。 この天然パーマだけはいくつになってもとれやしねェ。だが、年を取ったせいだろうか?最近渋みが増してきちゃったんじゃないかなーなんて 銀さん思っちゃうわけ。でも女にはモテない。何でだコノヤロー。ちなみに俺の股間センサーはそんじょそこらの若者にはまだまだ負けやしねェってことで。 チラリと鏡越しに皺の寄っている口元を見て溜息をついた。おっさんになったな、俺。 それもそうだろう、あのちまっこかった沖田くんとこのガキがもう三歳になったと風の噂で聞く。 沖田総悟―…奴は俺が出逢った時からずっと変わらず真撰組の一番隊隊長のままだ。いつか土方殺して副長になってやると、 意気込んでいるがその目標はまだ達成されてないようだ。なんつーか、アイツ等とはずっと腐れ縁のような、腸の中で繋がっているような、 なんつーかお世辞にも綺麗とは言えねェ関係のまま続いている。たまに総一郎君…じゃなかった総悟だっけ?此処に、万事屋に遊びに来ては 荒らして帰るっつーなんとも迷惑な存在となってらァ。 ま、ガキが出来てからか最近そういう音沙汰もさっぱり無くなってほっとしたような物足りねーような…

「…って、別に寂しいわけじゃないからァァ!」
「うっせーよ、天パァ。何が寂しいアルか一人で慰めてろコノヤロー」

寝起きで不機嫌な神楽は洗面所を占領している俺を押しのけて歯を磨き始めた。 この女と一緒に過ごし始めて一体何年経ったか忘れたぜ。数年前と変わったことと言えば、 せいぜい髪のお団子が無くなったことだろうか?

神楽はまだ眠いのか欠伸を一つすると俺の目の前にもかかわらず服を脱いだ。 そういう時に限って、来客者はやってくる。

「旦那ァ、総悟でさァ。上がりやすぜ?」

げ、ちょ、こういう時に限って沖田君来ちゃうわけェェェ!?慌てて神楽を見ると、既にこの女は ロングのスリットが深く入ったチャイナドレスを悠々と着こなしてストッキングを履き始めていた。

「ちょ、ちょっ、沖田君!待っ」
「てーか、旦那。鍵くらいかけた方がいいと思いやすぜ。年頃の女だって居るんだろィ―…っと!」
「あー…だから言っただろうが、待てって。」

ストッキングを履いている神楽が顔を上げて笑った。

「よォ、サド野郎。」
「……年頃の女じゃなかったな、年増で充分でさァ。」
「お前ェェェ朝っぱらから喧嘩売ってんのかァァ!」

何年経っても相変わらずのコイツ等を余所目にしていると沖田くんの後ろに隠れて見えなかった思わぬ来客に驚いた。

「お久しぶり、銀さん。」

沖田くんの嫁であるだ。驚いたあの鼻水垂らしてたガキがいつの間にこんな大人の女になったのだろう。 神楽とはまた違う、色香が漂っていた。しかし妙な気分になる、そう…何か違う。 そう思った瞬間にぐいっと俺の着物が引っ張られた。

「ちちうえ。」
「は?」

見上げているのは沖田くんと同じ髪色、そして黒く大きく見開かれた瞳。 色の白い肌に小さな顔、鼻なんてまるで米粒みてーにちっせェガキだ。

「沖田くんんんん!何時の間にそんな小さくなっちゃったのォォ!」
「旦那ァ、俺ァ此処ですぜ。」
「あれっ沖田君が二人ィィィ!?」
「銀ちゃん馬鹿アルか。そいつ、サド野郎との餓鬼ヨ。前に一回だけ病院に見に行ったろ」

神楽が行ってんのは3年前の8月の話。沖田くんとの子どもが産まれたと知らせを受けて まァ顔見にがてら病院に行ったわけだが、ガラス越しに見たあの時の赤ん坊と今のこいつじゃ似ても 似つかねェ。年月とは凄いものだ、と関心した。

「チッなんだ、ちちうえじゃねーのかよ」

その大きかった瞳が細められ、眉は不機嫌そうに寄せられた。 その上背後から黒いオーラ出てんですけどォォォ!なにこの子!もうこの時点でサドに目覚めてんのか?! 掴んでいた着物を離すと、これみよがしにガキは舌打ちをした。銀さんカッチーン。

「オイオイ、。どんな教育してんだよお前ンとこは。これじゃ沖田くんジュニアじゃねーかよ」
「統悟、俺とこんなマダオを間違えるなんてどういう了見でィ」
「いや、あの沖田くーん。何マダオとか教えちゃってんの?!俺マダオじゃねェし」
「マダオだろうが」

すかさずストッキングを履き終わった神楽が突っ込む。
俺をずいっと押しのけて、前に出た。

「サド野郎、決着つけるために来たアルカ?」
「…まず、俺と旦那じゃ着てるモンが違うだろィ。よく周りを見ろ、いいな?」
「はい、ちちうえ!」
「オイ、無視かコノヤロォォォォ!!」
「か、神楽!抑えてェェェ!総悟はいつもこんなんだからしょうがないってェ!」

暴走する神楽を必死に止める、。そういやァ、こいつら仲良かったっけ。 沖田くんと神楽は昔からずっと喧嘩するような仲だが、それはそれでこいつらなりの深い関わり合いらしい。 それをは知っている。昔と比べると本当に成長をしたもんだ。 沖田が、まだだった頃、俺と彼女は知り合った。 知り合ったといっても、依頼主という関係だったのだが…依頼というよりは相談に近かった。 「好きな人が居る」と、「でもその人には別に好きな人が居るんです。どうしたらいいでしょうか」なんていう くっだらねー相談。後で気づいた話だが、その好きな人が沖田くんで沖田くんの好きな人がうちの神楽、というわけだ。 だから俺に相談をしにきた、そんな流れだったように思う。まァ沖田くんと神楽はそういう関係じゃなかったわけだが。 とりあえず、そこからの繋がりで沖田くんとが付き合うことになった時、彼女は泣きながら俺へ知らせに来たのを覚えてる。 そん時だな、鼻水垂らしてたの見て俺は馬鹿な女だと笑った。 それからちょくちょく遊びには来てたが、時とは不思議なもので一足や連絡も徐々に消えて、俺もの ことを忘れかけていた頃だった。が急にやってきて、結婚すると言い出した。もちろん相手は沖田くんだ。 久しぶりに会った彼女は綺麗になったと正直に感じた。彼女を綺麗にしたのはきっとアイツだろう、そんなことを 考えつつも娘を嫁にやりたくねーみたいな親父の気分に陥った俺だったが、「幸せになれよ。」と渋々言うと、 は「もう幸せだよ」とびっきりの笑顔で微笑った。

、俺達が出逢って何年目だ?」
「…え?どうだろ、総悟と付き合う前だから…6年前くらい前かなぁ?」
「あん時から比べりゃ、月とすっぽんだな。」
「えぇ、どういう意味よ銀ちゃーん!」
「オイ、テメェら俺を他所に何やってんでェ。」
「ぷぷー沖田くんいっちょ前にヤキモチですか、銀さん笑っちゃーう」
「旦那ァ早死にしてェようですねィ。」
「総悟ストップゥゥゥ!」
「何でェ、。アンタ、旦那の味方なんですかィ。だったら旦那のとこ行けば〜」
「え、何それうざいんだけど!」
「大体、旦那と仲良し過ぎやしやせんか?」
「そういう総悟だって神楽と、」

ぎゃーぎゃー騒いじゃって煩いんですがコノヤロー。いつの間にか俺も神楽も…ガキの統悟もそっちのけで 喧嘩しだす始末。まァ痴話喧嘩するほど仲がいいって言うけどなァ。ガキの前でするのはどうかと思うぜ?

「ったく、相変わらずネ。お前のかーちゃんととーちゃんいつもこう?」

神楽が統悟と目線を同じにして囁く。オイオイ、なんかガキの頬が赤くなってんですけど〜。 銀さん嫌な予感がむんむんするわ。

「うん。たまにだけど、…でもなかいいしょうこだってひちかたさんが、」
「ひちかたさん…!」

あの鬼副長と呼ばれる土方もコイツに言わせりゃ笑える副長に変身だ。 思わず俺が大爆笑をすると統悟が「だまれよ」と笑顔で言った。…アレ、何この扱いィィィ

「もし二人が離婚したらうち来たらいいアル。」

神楽が笑顔で統悟の頭を撫でた。その爆弾発言に思わずみんなが反応する。

「離婚なんて誰がするかァァァ!」
「離婚なんてしてやるもんですかァァ」

まるで口裏を合わせたかのように、一斉にこちらを向いて沖田くんとは叫んだ。 なんだお前等、此処は惚気を言うための場所じゃねーんですけど。マジ帰ってくれねーかな。 さっきまで喧嘩してやがったのに二人は「ぷ」と噴き出して笑っている。

「オイ神楽ァ、縁起でもねーこと言わねェの。」
「…だって、…統悟可愛いネ。」

どうやら神楽はと沖田くんのガキが気に入ったようだ。ぎゅーっと抱き締めている。 一方統悟はというと慌てふためいたようにおろおろして、また顔を赤くしていた。 何だコイツ、俺と態度ちげェんだけど。

「さて、と。そろそろ帰ろうか。」
「え、結局お前等何しにきたわけ?」
「散歩の途中だったんです、で、久しぶりに万事屋に行ってみようかって話になって。」
「旦那やチャイナには成長したコイツをまだ見せてなかったと思いやしてねェ。」

なるほど。そういう訳だったのか。
でも、確かにいいモンが見れたと目を細めた。

「今度、一人で来れるようになったらうちに泊めてやるよ。」

また来いな、と笑って沖田くんジュニアの頭を撫でるとふいっと顔を逸らされた。 沖田くんに似て本当かっわいくねェなァ。

「統悟、お前が大人になったら私のヒモにしてやるネ。」
「ほんとに?」
「いや、だから神楽ァァァア!ガキにそんなこと言うなってェェ。教育上問題があるからさァ! もしこれで沖田くんとかに訴えられたらどうするわけ?!銀さん金ねーから慰謝料なんて払えないんだけど、マジで。 んでもって沖田くんジュニア。お前もほんとうに?っとか聞き返すな。こんな女に捕まったら将来ぜってー後悔すr」

げほォォォ!(チクショー、いってェ神楽に殴られた。)

「とーご、またあそびにくる!」
「おう。外に出る時は必ず左右確認しろよ?」
「うんっ」
「それじゃ、お邪魔しました。」

がそっと統悟の手を取った。

「俺ァ、また来やすぜ。チャイナ、決着はまた今度な。」

沖田くんも統悟の手を取った。

沖田くんと付き合えたくらいだけで泣いていたまちが母親見え、 何かと神楽に突っかかっては馬鹿なことばかりやっていた沖田くんが父親に見え、 少しだけ眩しい。だが、帰っていく沖田一家の背中を眺めつつ、「私もガキが欲しくなってきたネ。」と 神楽が呟いた言葉に俺は心底焦っていた。





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沖田くん、。守ってやれよ、お前等のその大切な存在を、
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