畳の上には不釣合いなベッド、それはとても小さくて大人の背丈よりも高さの無いもの。 「ぎゃぁぎゃぁ」と泣き声をあげて、誰かを呼んでいるようで 中には取り残されたかのように顔をくしゃくしゃに歪めて泣くお稚児。 壁には黒い習字の紙で書かれてあった「命名 統悟」その字はまさしく、近藤さんのもので、

「はいはい、泣かないの。居るからね、ここに。」

栗色の髪色は誰に似たのやら、それでも薄くて柔らかいその髪を撫ぜて抱き上げた。 ミルクの匂いがするこの子は生まれてまもなくこの家にやってきて朝と夜が逆転してしまっている。 そう、夜泣きがとっても酷くて母親の私を悩ますほどの子だ。 彼もきっとそうだったんだろう、絶対そうだ。とか内心思いつつ溜息をついて横抱きにしたまま 統悟をあやした。ひっくひくっとしゃっくりをあげて、あぁそれでも泣き止まない。 最初は良かったものの、何日もこれが続くと流石に参ってくる。 それでも自分は母親で痛い思いをして産んだ子だから、たとえ今が夜中の4時であろうが放っておく わけにはいかないのだ。 生まれたばかりの時は2980グラム、平均より少し痩せていたけれど今はそれがこの腕にはとても 重たく感じてしまう。疲れていた。

「ねんねーん、おこーろりー」

歌ってあやして、あれ、可笑しいな。頭がぐるぐるする。 どうしたんだろう…寝不足かな。 とん、と音を立てて背を柱についた。此処はどこだろう。 畳が歪む、統悟が泣く。あぁ泣かないで、いい子だから。

ぐらり、視界が揺れる。

「っ…」
「ふぇ…ふぎゃぁっ…」

不安げな私の腕を感じ取ったのか、また統悟が泣き出した。 落とすまいと必死になってきつくきつく我が子を抱きしめ、ずるりと橋にもたれる。 視界が真っ暗に、 な っ た





「…イ、…オイ、。起きなせェ。」
「ん……」

緩やかな声と甘いミルクの匂い。栗色の髪の毛、黒い服。 ぼんやりとした影を捉えて、その瞼を開けばそこには愛する人がいた。

「…そう、ご?」
「アンタ、寝不足らしいぜィ。ったく無茶ばっかしやがって」
「あ、れ。私―…ッ!統悟は!?」
「寝てまさァ。」

総悟の腕には白いタオル生地の服を着てくるまって眠っている統悟が居る。 意外と彼は子供の扱いが上手だ。抱くのにしても、あやすのにしても、私よりこの子は泣き止む。(これって不公平な気がするよ!まったく。) すやすやと気持ちよさげに眠る統悟の表情がまた可愛くて憎らしい。 安堵している間もなく「、今日から屯所に移りなせェ」と総悟に言われた。

「はい?」
「手配はしてある。局長と土方さんの了解も得てまさァ。いいか、今度からは俺の目の届く範囲で育児しなせェ。もう二度とこんなことがねェようにな。」
「う…ご、ごめんなさい。」

冷め切った総悟の目線が痛くて思わず目を伏せた。(マジ母親失格です、すんません。)

「いや、これはアンタにばかり任せっきりにしてた俺の責任でもあるんですぜ。帰ってきたら倒れてて…吃驚しただろィ、バカ。」

張り詰めていた彼の声が静かに優しくやんわりと、言う。胸のうちを少し分かって貰えただけで、私は嬉しくなった。

「総悟っ…総悟大好きー!」
「え、おまッ…!何でィ急に!」

コイツ落としちまったらどうすんでィ、と総悟が小言を言った。でもどうしても抱きつきたかったんだもん。 心の中で思っていたら総悟の顔が近づいてきた。一瞬戸惑って、恥ずかしくて、でも久しぶりだったから素直に目を閉じる。

「ふえ、えぇぇん!」

ぴたりと止まる二人の動作。総悟と私は目を合わせる。私が噴き出しそうになって、総悟は溜息をついた。 私達の間に挟まれて窮屈そうに統悟が泣き声をあげた。(総悟と統悟って漢字が似てるから見分けづらい!)

「前途多難でさァ」

うん、全くだと思う。




Harmonie des anges
眠れ眠れ可愛いこ それでも君の声は天使の声
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